渉外弁護士の年収、渉外弁護士は激務なのか

弁護士を目指している人の中には渉外弁護士に憧れている人は多くいます。しかし、渉外弁護士について誤解している方もまた、多くいます。また、既に弁護士になった後に、渉外弁護士に転身することはできないのでしょうか。このような疑問に答えるため、以下では、渉外弁護士を目指すなら知っておくべきことを説明します。

渉外弁護士とは

定義があるわけではありませんが、通常、渉外弁護士とは、渉外性のあるビジネス法務を取り扱う弁護士のことをいいます。渉外案件とは外国が関わる案件のことです。渉外の「渉」は「かかわる」という意味をもっていて、渉外の「外」は、外国を指しています。つまり、文字通りの意味ということですね。なお、外国が関わる案件であっても、ビジネス法務以外(またはビジネス性の低い)の案件、例えば、渉外離婚、渉外相続および在留資格の手続等を取り扱う弁護士のことは、通常、渉外弁護士とはいいません。

渉外弁護士と外国弁護士、外国法事務弁護士および国際弁護士とのそれぞれの違い

渉外弁護士と似たような言葉に、外国弁護士、外国法事務弁護士および国際弁護士があります。これらの言葉と渉外弁護士は、それぞれどのように異なるのでしょうか。以下、説明します。

外国弁護士とは

外国弁護士は、渉外弁護士と違い、法(外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(外弁法))によって定義されています。外国弁護士とは、「外国において法律事務を行うことを職務とする者で弁護士に相当する者」(法2条1号)をいいます。
渉外弁護士にも外国の弁護士資格を持っている方はいますが、日本の弁護士に加えて外国の弁護士資格を持っています。外国弁護士のように外国の弁護士資格のみを持っている人のことは、通常は渉外弁護士とはいわないでしょう。なお、渉外弁護士は外国の弁護士資格を取得する場合、アメリカのニューヨーク州またはカリフォルニア州の資格を取得することが多いようです。

外国法事務弁護士とは

外国弁護士が法務大臣の承認を得て、日弁連の外国法務事務弁護士名簿に登録された人のことを外国法事務弁護士といいます。外国法事務弁護士として登録されると、日本国内において、弁護士資格を持っている国の法に関する法律事務を取り扱うことができるようになります。なお、外国法務事務弁護士でない外国弁護士は、日本で法律事務を行うと非弁行為になります。また、外国法事務弁護士でも、弁護士資格を持っていない国の法に関する法律事務を取り扱うことはできません。
渉外弁護士との違いという点では、外国弁護士と同様、日本の弁護士資格を持っているかどうかの点で大きく異なります。
ちなみに、外国法事務弁護士は、2017年2月1日現在、412人いて、うち382人(約93%)が東京三弁護士会に所属しています。

国際弁護士とは

国際弁護士は前二者と違って定義された言葉ではないため、様々なバックボーンの人が国際弁護士の肩書を名乗っています。国際弁護士の肩書を名乗るケースを大別すると、主に次の3つになります。

  1. 日本および外国の弁護士資格を有する場合
  2. 日本に居住する外国弁護士の場合
  3. 日本の弁護士で外国との関わりが深い場合

このうち、1及び3の場合で、渉外案件を扱っている場合は、渉外弁護士ともいえるでしょう。2の場合は、外国弁護士なので、日本の弁護士資格を持たない点で渉外弁護士とは異なります。

渉外弁護士の業務

渉外弁護士が取り扱う業務は、アウトバウンド業務とインバウンド業務に大別されます。

アウトバウンド業務

アウトバウンド業務とは、日本企業が日本国外で活動する際に必要とされる法務サービスのことで、主に外国法が関連します。例えば、次のような事項にかかわる法務サービスがアウトバウンド業務に当たります。

  • 外国企業の買収
  • 外国企業との合併および業務提携
  • 日本国外における金融取引および訴訟

インバウンド業務

インバウンド業務とは、外国企業や外国系国内企業が日本国内で活動する際に必要とされる法務サービスのことで、主に日本法が関連します。例えば、次のような事項にかかわる法務サービスがインバウンド業務に当たります。

  • 日本企業の買収
  • 日本企業との合併および業務提携
  • 日本国内における金融取引および訴訟

渉外事務所とは

渉外弁護士は、渉外事務所(渉外法律事務所)に主に所属しています。渉外事務所とは、企業法務としての渉外案件を主に取り扱う事務所のことです。主に次の法律事務所が渉外事務所とよばれます。

  • 西村あさひ法律事務所
  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所
  • 森・濱田松本法律事務所
  • 長島・大野・常松法律事務所
  • TMI総合法律事務所

これらの渉外事務所は、元々は渉外案件が主要業務だったのですが、1994年の外弁法の改正によって欧米系の法律事務所の日本進出が増加し、渉外案件のシェアが彼らに奪われるようになったこと等から、渉外事務所とよばれていた事務所においても国内案件の割合が高まるようになりました。さらに、現在では、従来の欧米に関する渉外から、アジアに関する渉外案件に転換していっています。

渉外弁護士になるには?英語ができなければならない?

サマー・クラークへの参加が重要

渉外事務所の人材採用は基本的には司法修習前の合格者から行います。
渉外事務所に入るためには、その事務所のサマー・クラークに参加することが極めて重要です。サマー・クラークは法律事務所が実施する法科大学院生向けの就業体験です。サマー・クラークは、渉外事務所を含め企業法務系の大規模事務所で主に実施されています。法科大学院修了年度の7月〜9月に行われます(大阪では修了後の6月、7月に行われることが多い)。1万円程度の日当が支給されるほか、遠方の学生には交通費と宿泊費が支給されます。サマー・クラークで優秀と認められると、翌年の司法試験終了後、事務所から連絡があり、個別訪問といわれる面接に呼ばれます。1回〜3回の面接を経て、遅くとも7月中には内定が出されます。もっとも、事務所からお呼びがかからない場合や、そもそもサマー・クラークに参加していない場合でも、採用選考に応募することはできますし、サマー・クラークに参加していなくても内定が出るケースはあります。

司法試験の成績は関係ある?

なお、司法試験合格発表前に合格発表が行われるため、司法試験の成績は当然合否に関係はありません。ただし、司法試験や二回試験が不合格だった場合は内定取り消しとなります。なお、この内定不合格者の引き換えというわけはないのかもしれませんが、司法試験に合格発表後に司法試験の成績が良かった合格者(2桁合格者)に対して追加採用が行われます。

英語ができなければならない?

英語等の語学力を重視するかどうかは、事務所ごとに方針が異なるといわれています。語学力は後からでも身に着けられるので、身につきづらい素養の方を重視している事務所が多いでしょう。ただ、採用ページに語学力を重視することを優遇することを明記している事務所もあります。

中途採用はないの?

中途採用もまったくないわけではありませんが、一般民事の事務所に入った後に渉外事務所に転籍というルートはあまりありません。高名な弁護士をパートナーとして迎え入れたり、他の渉外事務所や企業法務系事務所から優秀な弁護士から応募があった場合に採用したりするようなかたちあって、毎年枠を設けて決まって採用するようなかたちでの採用は行っていない事務所が多いでしょう。ただ、法曹になって数年以内の人を対象に第2新卒としての採用を行っている渉外事務所もありますので、事務所の採用ページを小まめに確認するとよいでしょう。

渉外弁護士の年収

渉外弁護士の多くは1年目から年収が1,000万円を超えます。大手渉外事務所のパートナーとなると1億円を超える年収が見込めます。しかしながら最近は、渉外事務所の弁護士数の増加に伴い、パートナー数に対するアソシエイト数の比率(レバレッジ・レイシオ)が低下しているため、アソシエイトがパートナーになることは以前に比べて難しくなっています。もっとも、アソシエイト段階でも3,000万円を超える人もおり、一般民事の弁護士と比べると高収入といえるでしょう。

渉外弁護士は激務?

渉外弁護士は、一般民事の弁護士に比べて激務であることが多いでしょう。国際的な契約は、商慣習が異なる会社間で結ばれるため、仔細なことも契約書に落とし込みます。これを丁寧に読み解いて一つ一つ修正していくのは大変な作業です。また、M&Aのデューデリジェンスも渉外弁護士の仕事ですが、買収対象の会社がこれまでに結んできた膨大な契約を一つ一つ精査し報告しなければならず、大変地道で時間を要する作業です。しかも、M&Aは短期集中で行われるため、この期間は大変過酷な状況になります。

渉外弁護士からのキャリアパス

渉外弁護士から一般民事に転向することも可能ですが、業務内容は大きく異なるので、これまでのキャリアを活かしにくいでしょう。キャリアを活かすには、ほかの渉外事務所や企業法務系事務所、インハウスロイヤーへの転職が考えられます。大手渉外事務所からインハウスロイヤーへの転職は収入を落とすことになるケースが多いですが、インハウスにはインハウスの魅力もあります。例えば、所属企業の海外進出プロジェクトに最初からずっと継続して携われるのは、渉外弁護士にはないインハウスならでは魅力といえるでしょう。