就職難は嘘なのか?弁護士の就職難の実態

司法制度改革によって弁護士になる人の数が増えてしばらく経ちました。それに伴って、法律事務所に弁護士として就職することは難しくなっていると聞くこともあります。実際に弁護士になろうとする人たちは就職難に直面しているのでしょうか?

その実態について客観的なデータを基にして切り込んでみたいと思います。

弁護士の就職難の実態

弁護士の大幅な増加

司法制度改革の流れの中で、国民の司法へのアクセス改善の観点から弁護士を増員する方針が固まり、具体的には平成16年には法科大学院が設立され、新司法試験制度が導入されました。

かつては年間500人程度であった司法試験の合格者数は、新司法試験の合格者数分だけでも平成18年には1,000人を、平成24年には2,100人を超え、そのほとんどは弁護士となったため、弁護士人口は爆発的に増加することとなりました。

その後、平成26年には合格者数は2,000人を切って1,800人程度となり減少に転じています。

新旧あわせた司法試験合格者のうち、弁護士となった人は平成19年には2,000人を超えましたが、平成21年に2,000人を下回った後は減少を続け、平成26年には1,200人程度となっています。

減少傾向にあるとはいえ、年々1,200人以上の弁護士が増加している状態が続いており、10年ごとの弁護士人口を見てみると、1995年に15,108人だったものが2005年には21,185人、2015年には36,415人と大幅に増加し続けていることが分かります。

弁護士の就職難の有無

最近の弁護士未登録者(司法修習を修了したが裁判官・検察官にならず弁護士登録もしていない者)の数は、平成25年度で見ると修習終了直後で570人(28%)、修習終了から約3か月後で151人(7.4%)、修習終了から約6か月後で87人(4.3%)、修習終了から約1年後で57人(2.8%)となっています(以下も含め、本稿の数値は内閣官房法曹養成制度改革推進室の平成27年4月の報告書によっています)。

修習終了直後に弁護士登録をせず、その後登録した人の中には、自ら事務所を設立して独立開業したケースもあると思われますので、最終的に法律事務所への就職が実現したかどうかは定かではありませんが、最終的には97.8%の人が修習終了から約1年の間には弁護士となっていることが分かります。

この客観的データが弁護士の就職難をあらわすのか、それとも就職難はないことをあらわすのかの判断は難しいところです。

修習終了直後で見れば、28%の人が弁護士になっておらず、就職難の結果と取れそうですが、これは就職先の事務所の方針で弁護士会費の節約のため修習終了直後ではなく、月が変わった1月に登録する新人弁護士が多いからでしょう。修習終了から1年のスパンで見れば97.8%の人が弁護士になっているのですから、最終的にはほとんどの人が就職(もしくは独立)できたことになり必ずしも就職難とはいえないとも取ることができます。

ただ、弁護士人口が急増する以前には、ほとんどの人が修習終了直後に弁護士になっていたことからすると、やはり弁護士の就職難は存在すると見るべきではないかと思います。仮に、1年以内に弁護士になったとしても、修習終了時点から弁護士になるまでの間は弁護士としての収入はなかったことになりますから、大変困難な状況に置かれていたことは間違いないでしょう。

なお、司法制度改革の議論においては、弁護士人口が増えることによって需要も喚起されて国民のすみずみに法的サービスが行きわたるというビジョンが示されていましたが、実際には弁護士に対する需要が増えたという現実はないようです。 裁判所の民事刑事の全事件数は平成15年の611万件をピークに減少を続けており、平成25年は361万件にまで減少しています。また、かつては予約がすぐには取れなかった弁護士会の法律相談の予約が入らなくなり閑古鳥が鳴いているケースもあるようです(これは法テラスの無料相談に顧客を取られているということに原因があるかもしれませんが)。

また、弁護士の平均所得は、平成18年が1,748万円だったものが、平成26年には907万円にまで落ち込んでいます。

弁護士業界を取り巻く環境がこのような状況ですから、弁護士を目指す受験生や司法修習生が、就職も大変なのではないかという心配をするのも当然のことでしょう。

弁護士の就職率

弁護士の就職率ですが、先ほども触れたとおり、12月中旬の一括登録時に弁護士登録を行わない理由が就職が決まっていないことではないケースが多いため修習終了後3か月の時点で比較すると、弁護士未登録者は、平成24年には135人(6.5%)、平成25年は151人(7.4%)、平成26年には155人(7.9%)と6.5~8%程度のパーセンテージで推移しています。さらに、修習終了後1年の時点では、平成24年は52人(2.5%)、平成25年は57人(2.8%)となっています。

このデータをどう見るかですが、修習終了後1年の時点での弁護士未登録者が法律事務所への就職を希望しているが就職できていない人なのかどうかが分かりませんので明確には言えませんが、すでに述べたとおり、新司法試験や法科大学院導入前のかつての状況と比べれば就職率は決してよくはないということは言えるでしょう。

ただ、逆に言うと、ほとんどの人が弁護士登録に至っているのですから、巷間言われているほどのひどい就職難というわけでもなさそうです。就職活動に注力することで十分克服できるレベルのものといえるでしょう。就職活動に臨む受験生や修習生としては、真剣に就職活動を行っていく必要はあるでしょうが、就職に悲観的になったり悲壮感を感じたりする必要はありません。

弁護士の就職状況と年齢や学歴との関係

弁護士の就職と年齢、学歴との関係を示す具体的なデータには接することはできませんでしたが、やはり年齢や学歴と就職の容易さは結びついていると思われます。少なくとも、希望する就職先への就職が実現するかどうかという観点からは、年齢が若くかつ評価の高い大学や法科大学院の出身者が有利であるということは一般的にはいえるでしょう。

特に、企業法務・渉外系の大規模事務所は、司法試験合格発表の前から内定を出していることからすると、司法試験の成績、実務修習の成績などは考慮することは全くできませんから、学歴・年齢、サマー・クラークにおける評価などによってある程度採否を判断していることが想像できます。

ただし、このような法律事務所を除くと、年齢や学歴が就職の支障になるということは実際にはさほど心配する必要はないように思います。採用側の弁護士の年齢を超える年齢の新人弁護士を採用しづらいというようなことはあるでしょうが、そうでない限りは若くなくてもすんなり採用が決まっている例は普通に存在しています。採用側の立場からすると、少々年齢がいっていた方が精神的に落ち着いていてよい印象を持ったり、部下(イソ弁)として使いやすいと考えるケースがあるのです。

また、学歴についても、最終的には司法修習を修了した人はみな同じ条件で試験(司法試験と二回試験)をクリアしてきているのですから、よほど学歴にこだわりのある弁護士を除いてはさほど重視しないのが実際です(先ほど触れた企業法務・渉外系の事務所は別ですが)。

社会人弁護士の就職

社会人から一念発起して司法試験を目指した人にとっては、就職問題は悩ましいところでしょう。

スタートした時点が違いますから、どうしても若い司法修習生とは年齢に大きな差があります。ただ、先ほど述べたことと同様に、年齢面で就職を心配する必要はありません。しかも、社会人経験があることは、高評価の対象となることはあっても、それが原因で低い評価をされることはまずありません。

採用する弁護士は、大人の社会人としての弁護士を求めているのであって、若者を求めているわけではありません。その点、社会人経験を経ている人は、ある程度の社会経験のある人として見てもらうことができ、このことは必ず有利に働きます。また、社会人としての経験は、依頼者との対応や仕事の獲得などの点でも役に立ちます。経験した仕事の種類によっては弁護士業務に直接役立つこともあるでしょう。

まとめ

以上、弁護士の就職難について述べてきましたが、最近は就職活動の開始時期が大変早くなっており、かつてと比べると弁護士の就職率も落ちていることとあわせて、就職について不安を持っている受験生や司法修習生が多いと思います。確かに、データからは就職活動が楽でないことは推測できますが、大事なことは、就職・求人に関する情報を広く収集して積極的かつ幅広く就職活動を行い、自分の長所を採用担当者によく見てもらうことに尽きるでしょう。