弁護士の人数の推移と今後のシミュレーション

平成13年に司法制度改革審議会が「司法制度改革審議会意見書 - 21世紀の日本を支える司法制度」と題して行なった提言により、裁判員裁判の導入や知的財産高等裁判所の設置とともに、鳴り物入りで始まった法科大学院制度。

同意見書においては、法曹人口の大幅な増加が喫緊の課題であるとされ、年間3,000人程度の新規法曹の養成が必要であると指摘されており、実際に、平成13年に18,246人であった弁護士の数は、平成27年3月31日時点では36,415人にまで増加しています。

ただ、平成24年に内閣に設置された法曹養成制度検討会議が、翌25年6月に取りまとめた意見においては、司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあること、法律事務所への就職が困難な状況が生じていることが指摘され、司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものといわざるを得ないと言及されています。

今後、弁護士を中心とする法曹の数はどのように変化していくのか、そもそも日本の弁護士の数は諸外国に比べて少ないのか、また、法律事務所以外で勤務している弁護士は増えているのか等、今後の弁護士の数のあり方について検討してみたいです。

弁護士数の推移

今後の法曹人口についてのシミュレーション

直近5年間の司法試験合格者数

前述のとおり、平成25年6月に法曹養成制度検討会議の取りまとめにおいては、「司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることは現実性を欠く」と指摘されており、実際、ここ5年間の司法試験の合格者数は、2,000人前後で推移しながら、やや減少しつつあります。

年度 司法試験合格者数
2011 2,063人
2012 2,102人
2013 2,049人
2014 1,810人
2015 1,850人

今後15年間の司法試験合格者数と法曹人口の推移

そこで、今後の司法試験合格者数によって、今後の法曹人口がどの程度増加するかについてシミュレーションをしてみました。各年度の法曹人口は、法曹有資格者の実働年数を43年と仮定し、司法修習終了後43年後に法曹としては勤務しなくなるとの前提に立ち、下記の計算式によって算出しました。

(計算式) 法曹三者総人口=前年の法曹三者総人口+前年の司法試験合格者-43年前修習終了者

<法曹人口シミュレーション>                   ※太字は5万人超

年度 法曹三者人口(司法試験年間合格者数の仮定) 43年前司法修習修了者
2,000人 1,700人 1,500人 1,300人 1,000人
2015 41,255 41,255 41,255 41,255 41,255 495
2016 42,762 42,462 42,262 42,062 41,762 493
2017 44,256 43,656 43,256 42,856 42,256 506
2018 45,713 44,813 44,213 43,613 42,713 543
2019 47,176 45,976 45,176 44,376 43,176 537
2020 48,692 47,192 46,192 45,192 43,692 484
2021 50,229 48,429 47,229 46,029 44,229 463
2022 51,764 49,664 48,264 46,864 44,764 465
2023 53,310 50,910 49,310 47,710 45,310 454
2024 54,826 52,126 50,326 48,526 45,826 484
2025 56,327 53,327 51,327 49,327 46,327 499
2026 57,844 54,544 52,344 50,144 46,844 483
2027 59,408 55,808 53,408 51,008 47,408 436
2028 60,961 57,061 54,461 51,861 47,961 447
2029 62,511 58,311 55,511 52,711 48,511 450
2030 64,063 59,563 56,563 53,563 49,063 448

※平成27年は,同年度の裁判官(簡易裁判所判事を除く)及び検察官(副検事を除く)の定員に、同年4月1日現在の弁護士数(正会員数)を加えた数字。

考察

上記の表からもわかるとおり、仮に、毎年の司法試験合格者数が、仮にここ5年と同じ2,000人程度で推移したとしても、平成33年には法曹人口が5万人を超え、平成42年には6万人を超えます。

仮に、毎年の司法試験合格者数が1,500人程度に減少したとしても、平成42年には約56,000人、1,000人程度まで減少しても、平成42年には約50,000人となることからすると、今後10年強の間に、法曹人口は、約5~6万人規模になることはほぼ確実といえます。

このように、司法試験合格者数が、司法制度改革審議会意見書で言及された3,000人から相当程度減少したとしても、今後法曹人口が増加の一途を辿ることは明らかです。 では、このように法曹人口を増加させることが必要なのでしょうか。そこに国民のニーズがあるのかどうか、以下では、諸外国との比較や法律事務所以外における弁護士のニーズ等に着目して検討してみたいです。

外国における弁護士数

法曹一人当たりの国民の数による比較

平成13年の司法制度改革審議会意見書においては、我が国においては、国民一人当たりの法曹人口が諸外国に比べて少ないことが指摘されていました。

実際、平成9年時点の諸外国における法曹人口と日本の法曹人口を比較すると、下記のとおりとなっており、法曹一人当たりの国民の数が、我が国では極めて多い(国民一人当たりの法曹の数が少ない)といえる状況でした。

法曹人口 法曹一人当たりの国民の数
日本 20,000 6,300
アメリカ 941,000 290
イギリス 83,000 710
ドイツ 111,000 740
フランス 36,000 1,640

(各国の法曹人口の数は、「(各国の法曹人口の数は、司法制度改革審議会意見書」より抜粋)

これが、法曹人口の増加に伴い、平成25年10月時点では、我が国の法曹一人当たりの国民の数は、約3,000人程度にまで減少しています。

考察

確かに、国民一人当たりの法曹人口をみると、平成25年10月時点においても約3,000人と、諸外国に比べると我が国の法曹人口は非常に少ないようにみえます。

しかしながら、我が国においては、隣接法律職と呼ばれる職業が存在します。司法書士や行政書士、社会保険労務士等です。諸外国には、このような隣接法律職が存在しない国も多いです。例えば、アメリカでは、税理士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士といった職業がなく、日本におけるこれらの有資格者が行なう業務は、そのほとんどを弁護士が行なっています。イギリスでは、バリスター(法廷弁護士)とソリシター(事務弁護士)の2種類の弁護士が存在し、ソリシターは、日本でいうところの司法書士や行政書士に近い業務を行なっています(上記の表におけるイギリスの弁護士数は、バリスターとソリシターを合計した数です)。

このように、単に「弁護士」の数だけを比較すると、我が国は諸外国に比べて、国民一人当たりの弁護士の数が少ないようにも思えるが、諸外国の「弁護士」の数には、我が国における司法書士や行政書士等の隣接法律職の数も含まれていることから、単に「弁護士」の数だけで、国民の司法サービスへのアクセス度を比較するのは妥当ではないといえます。

このように、諸外国における弁護士の数との比較のみで、今後の法曹人口のあるべき姿について結論を導くのは早計といえます。

法律事務所以外で勤務する弁護士の数の推移

前述のように、国民一人当たりの法曹人口における諸外国と我が国との比較からは、我が国において、国民が求める弁護士のニーズを満たすために十分な弁護士の数がどの程度かを判断するのは困難です。

では、他の観点から考えてみたいです。

これまで、司法試験に合格し弁護士となったものは、法律事務所に勤める(もしくは法律事務所を開業する)のが一般的でした。しかし、法曹養成制度検討会議の取りまとめにおいても指摘されているように、「ここ数年、司法修習終了者の終了直後の弁護士

未登録者数が増加する傾向にあり、法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれる。」とされており、法曹人口の増加、特に弁護士の人数の増加に伴い、司法修習を終了した者が、従来のとおり、法律事務所に勤めて勤務弁護士あるいは開業弁護士として活動するという進路が狭くなっていることが指摘されています。

ここでは、法律事務所において弁護士として活動する以外の弁護士の活躍の場について検討してみたいです。

企業内弁護士数の推移

企業活動においては様々な法的リスクに対応するために、弁護士の能力や必要になる場面が多いです。実際に、多くの企業が、弁護士との間で顧問契約を締結し、訴訟対応だけでなく、契約書作成やコンプライアンス管理の面において、弁護士の力を必要としています。

そして、近年、法曹人口の増加に伴い、外部の弁護士と顧問契約を締結するだけでなく、従業員として弁護士を採用し、企業内弁護士として業務にあたらせる企業が増えてきています。

日本組織内弁護士協会の公表資料によると、平成17年時点における企業内弁護士の数は68社123人であったが、平成26年6月には619社1,179人と増加しており、会社数、採用人数とも10倍に増加しています。

企業内弁護士数の推移

地方自治体の法曹有資格者数の推移

次に、地方自治体における法曹有資格者の採用数を見てみたい。 これまで地方自治体は、開業弁護士と顧問契約を締結するのが一般的でした。しかし、地方自治体における法曹有資格者の常勤職員の毎年の採用数は,平成16年度は全国で2人しかなかったものの、平成25年度には32人,平成26年度には27人が採用されています。その結果,平成27年3月現在の全国の常勤職員数は14都県50市区町(一部事務組合を含む。)で合計87人にまで増加しています。 ※採用数は、「地方公共団体における法曹有資格者の常勤職員(2015年3月2日現在・日弁連調べ)」によります。

国の機関における弁護士の在職人数

また、地方公共団体だけでなく、国の機関においても、法曹有資格者を採用する動きが活発になっています。

国の機関等で勤務する弁護士は,平成18年1月1日現在で47人(うち常勤47人)であったものが,平成26年8月1日現在では、335人(うち常勤124人,非常勤211人)に増加しています。所属機関は、金融庁や消費者庁、文部科学省、公正取引委員会等多岐に渡っています。

考察

上記のように、企業や地方自治体、国の機関における法曹有資格者の採用は増加しつつあります。これは、組織内において、一定の専門的能力を有し,組織内の事情に精通する法曹有資格者を置くことによって、案件の当初から一貫して関与させることで、その専門性を機動的に活かすことが可能となるという点にその有用性が見出されているからです。

また、企業や地方自治体等の組織における法務という業務が、既存の法令との整合性を重視する旧来型の法務から、法律をより能動的に活用する政策法務へ転換することが求められており、そのために、法曹有資格者の採用・育成の動きが広がっているともいえます。

このように、法律事務所に勤めて勤務弁護士もしくは開業弁護士として活動する以外の場面において、法曹有資格者が活躍できるフィールドは広がりつつあるといえます。

法律事務所における弁護士数

前述のとおり、法曹養成制度検討会議の取りまとめにおいては、「ここ数年,司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり,法律事務所への就職が困難な状況が生じて いることがうかがわれる」と指摘されています。では実際、弁護士事務所における新規の弁護士の採用数は減少しているのでしょうか。

法科大学院修了生と在学生を対象とする就職・キャリアプランニング支援のためのサイトであるジュリナビの2017年全国法律事務所ランキング(下記表/50位以内を抜粋)によると、所属弁護士数で上位10位以内の法律事務所は軒並み弁護士数が増加していることがわかります。また、所属弁護士数のランキングでは50位以内には入っていないものの、大手会計士事務所関連のEY弁護士法人及びDT弁護士法人が採用数を増やしています。

順位 事務所名 都道府県
(主事務所) 弁護士数 昨対比 増減数
1 西村あさひ法律事務所 東京都 528 19
2 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 東京都 417 21
3 TMI総合法律事務所(※1) 東京都 372 19
4 長島・大野・常松法律事務所 東京都 380 26
5 森・濱田松本法律事務所 東京都 374 12
6 弁護士法人アディーレ法律事務所 東京都 190 30
7 弁護士法人ベリーベスト法律事務所 東京都 140 36
8 弁護士法人大江橋法律事務所 大阪府 133 9
9 シティユーワ法律事務所 東京都 139 1
10 ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事業 東京都 114 6
11 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 東京都 102 11
12 虎ノ門法律経済事務所 東京都 79 9
13 伊藤見富法律事務所(※2) 東京都 49 2
14 北浜法律事務所・外国法共同事業 大阪府 74 -7
15 弁護士法人御堂筋法律事務所 大阪府 75 5
16 岩田合同法律事務所 東京都 65 6
17 弁護士法人ALG&Associates 東京都 60 11
18 弁護士法人淀屋橋・山上合同 大阪府 56 -4
19 弁護士法人朝日中央綜合法律事務所 東京都 52 5
20 鳥飼総合法律事務所 東京都 50 5
21 弁護士法人中央総合法律事務所 大阪府 48 1
22 牛島総合法律事務所 東京都 48 -6
23 外国法共同事業・ジョーンズ・デイ法律事務所 東京都 36 -3
24 田辺総合法律事務所 東京都 45 0
25 弁護士法人心 愛知県 44 13
26 弁護士法人三宅法律事務所 大阪府 43 0
27 東京丸の内法律事務所 東京都 41 0
28 阿部・井窪・片山法律事務所 東京都 39 2
28 ホワイト&ケース法律事務所(※3) 東京都 25 3
30 光和総合法律事務所 東京都 39 2
31 奧野総合法律事務所・外国法共同事業 東京都 31 2
31 あさひ法律事務所 東京都 38 0
31 桃尾・松尾・難波法律事務所 東京都 38 1
31 隼あすか法律事務所 東京都 37 1
35 虎門中央法律事務所 東京都 37 0
36 島田法律事務所 東京都 35 2
36 クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業 東京都 29 -2
38 弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所 東京都 34 -7
38 弁護士法人法律事務所オーセンス 東京都 34 1
40 弁護士法人愛知総合法律事務所 愛知県 32 3
40 さくら共同法律事務所 東京都 32 2
42 スクワイヤ外国法共同事業法律事務所 東京都 21 0
42 東京法律事務所 東京都 31 0
44 早稲田リーガルコモンズ法律事務所 東京都 30 3
44 外国法共同事業法律事務所リンクレーターズ 東京都 28 0
44 名古屋第一法律事務所 愛知県 30 1
47 協和綜合法律事務所 大阪府 29 1
47 弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所 大阪府 29 0
47 きっかわ法律事務所 大阪府 29 1
47 真和総合法律事務所 東京都 29 -2

この表からもわかるとおり、必ずしも、法律事務所全てが弁護士の新規採用に後向きというわけではありません。所属人数の多い、いわゆる5大法律事務所だけでなく、新興系の法律事務所や会計系の法律事務所等、積極的に新規採用を行なっている事務所も少なくないのです。

まとめ

法曹養成制度検討会議の取りまとめが指摘するように、司法修習終了者の就職が以前よりも困難になっていることは事実です。しかしながら、それは、司法修習終了者のほとんどが法律事務所へ就職することを前提とした場合の話に過ぎないのではないでしょうか。

実際、企業内弁護士や、地方自治体・国の期間等の組織における法曹有資格者の採用数は増加しつつあります。そして、その数は増加しつつあるものの、まだ絶対数が少ないことを考慮すると、まだそこに法曹有資格者に対する需要が眠っているといえるのではないでしょうか。

今後、法曹となることを目指す者にとって必要なのは、司法修習終了後に、旧来型の進路を歩むことだけを前提とするのではなく、社会の様々な分野における法曹有資格者へのニーズを汲み取り、法律的知識はもちろん、その他の幅広い知識・見識を深める機会を積極的に見つけ、自分自身の視野を広げることが大切です。

司法試験の受験や司法修習の段階から、法曹となった後の活動領域を広げられるような研鑽を積むことによって、今後迎える法曹人口の増加の中においても、自己の存在意義を高めてくことが十分可能だと思います。