弁護士廃業の実態 修習期別の弁護士登録取消し請求数や割合と推移

修習を終えて弁護士となり、ある程度経験を積むと、自らの事務所を開設して独立することを考えるようになります。最近は以前と比べるとスケールメリットを生かすために弁護士の人数を増やす法律事務所も増えているため、かつてほどは弁護士が数年で独立するということが既定路線ではなくなっているようですが、弁護士になった人の中には、自分の思うように仕事をしたいと希望を持ち、積極的に独立開業を目指す人も少なくありません。

しかし、現在は弁護士といえども仕事が豊富にあることが約束されているわけではなく、むしろ経済的には年を追って厳しくなりつつあるとの話も聞こえてきます。そして、仕事が減少し、食べていけなくなった弁護士が、弁護士をやめて廃業することが増えているという報道などもなされているようです。独立開業を実現した若い弁護士やこれから独立開業を目指す弁護士、さらには弁護士を目指して勉強している人たちにとっては大変気にかかることです。

そこで、弁護士の廃業とはどのようなことなのか、弁護士の廃業は本当に増えているのかなどについて、データをもとに調べてみましょう。

弁護士の廃業とは

弁護士の廃業とは、弁護士が自分の意思で弁護士としての仕事を辞めることを指します。
高齢や病気を理由に廃業する場合、結婚・出産・育児を機に廃業する場合、他の職に就くために廃業する場合など、廃業にはさまざまな理由が考えられます。かつては弁護士の廃業の理由は、高齢や結婚・出産などによるものがほとんどだったようです。高齢を理由とする廃業は一般企業で言う退職に当たるでしょうし、結婚・出産を理由とする廃業も寿退社などと同様に見ることができ、通常の会社員などと比較して特別なものではないといえるでしょう。

しかし、最近は高齢・結婚・出産などの理由ではなく、弁護士としての収入では生活が成り立たないという理由での廃業が増えているのではないかといわれています。 司法改革の結果、ロースクール制度が設立され、司法試験合格者数を増やす政策が取られた結果、弁護士の人数は大幅に増えています。弁護士の数が増加しても弁護士が関わる事件数が増えるわけではないため、事件の依頼を得るために弁護士間の競争が激化し、その結果仕事を得ることができない弁護士が生じて、そのような弁護士が弁護士としての収入では生活が成り立たないために廃業することとなったというのです。

そこで、次に、本当にこのストーリーのとおりに廃業する弁護士の数が増えているのかをデータで確認してみることにしましょう。

弁護士登録取消し請求数の推移と弁護士数に占める割合

日弁連がまとめた2016年版弁護士白書に、2009年から2015年までの7年間の弁護士登録の取消しに関する統計がまとめられています。廃業する弁護士は多くの場合弁護士登録を取り消します。そこで、このデータを利用して廃業した弁護士の数について見てみることにします。

なお、弁護士登録の取消は、必ずしも廃業の場合のみに行われるものではありません。官公庁や一般企業に出向する場合や留学する場合など、一時的に弁護士としての活動をしない場合に弁護士登録を取消し、弁護士としての仕事に復帰するときに再度弁護士登録を行うこともあります。また、一定の非行により退会命令・除名などの処分を受けて弁護士としての資格を失った結果、弁護士登録が取り消されることもあります。したがって、弁護士登録の取消しの数と廃業の数とは一致しないことになります。

ただ、弁護士登録取消しの請求をする際に弁護士登録取消しの理由を詳細に明らかにすることは求められていないため、残念ながら登録取消しの理由ごとの数が正確にわかる統計は存在していません。そこで、ここでは弁護士登録が取り消された数ではなく、弁護士登録取消し請求が行われた数をもとに検討することにし、少なくとも除名等による取消しの数を排除した上で検討することにします。

2009年から2015年までの7年間について、弁護士数、弁護士登録請求者数、弁護士登録請求者数が弁護士数に占める割合のそれぞれについて年度ごとにまとめた一覧表が以下のものです(日弁連作成の2016年版弁護士白書より)。なお、表の括弧内の数字は女性の数値です。

 
弁護士数取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
2009年 28.110(4.644) 190(46) 0.7(1.0)
2010年 29.826(5.100) 185(55) 0.6(1.1)
2011年 31.444(5.580) 246(74) 0.8(1.3)
2012年 33.002(5.921) 289(98) 0.9(1.7)
2013年 34.446(6.321) 330(98) 1.0(1.8)
2014年 35.836(6.602) 366(134) 1.0(2.0)
2015年 37.126(6.881) 312(110) 0.8(1.6)

弁護士登録取消し請求の数は、2010年から2014年までは増え続け、2015年にいったん減少していますが、表を見て分かるとおり弁護士数は毎年増え続けていますので、このことで各年を比較して廃業の増減を云々することは適当ではありません。

そこで、取消請求者数が弁護士数に占める割合で比較する必要がありますが、これを見てみると、2010年から2013年にかけては取消請求者数が弁護士数に占める割合は毎年増加していますが、その増加の割合は決して大きいものではありません。そして、2013年以降は横ばいまたは減少となっています。これを如何に評価すべきか難しい問題です。2010年から2013年の傾向を重く見れば、登録取消し請求数は増加傾向にあるとする見方もできないわけではありません。他方、2013年以降の横ばいまたは減少の動きに着目すれば、7年間全体として見れば微増減はあるものの全体としてはさほど変化はないと見ることも可能です。

いずれにしても、弁護士登録取消し請求数全体から見た場合、弁護士登録取消しの数、すなわち弁護士の廃業の数が、「明らかに」増えているとまではいえないようです。

修習期別の弁護士登録取消し請求数

次に、修習期別の弁護士登録取消し請求数を調べてみましょう。
年齢が高い(すなわち修習期が古い)弁護士ほど高齢などのために廃業することが多いでしょうから、修習期が古いほど登録取消し請求者は多そうです。

また、仮に経済的理由で廃業する弁護士が増えているとすれば、期の若い弁護士ほど経済的基盤が弱いことが推測されますので、若い期ほど廃業する弁護士の数は多そうだと一応想像することができます。実際にそのような結果となっているかどうか、データを確認してみることにします。なお、データは前項と同じく日弁連の2016年版弁護士白書からのもので、表の括弧内の数字が女性の数値であることも先ほどと同様です。

2009年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
57期以降 9.519(2.285) 52(27) 0.5(1.2)
52期~56期 3.557(886) 28(11) 0.8(1.2)
42期~51期 4.543(750) 12(4) 0.3(0.5)
32期~41期 3.584(326) 3(0) 0.1(0.0)
22期~31期 3.546(232) 15(1) 0.4(0.4)
21期以前 3.361(165) 80(3) 2.4(1.8)
合計 28.110(4.644) 190(46) 0.7(1.0)

2010年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
58期以降 10.436(2.536) 63(34) 0.8(1.3)
53期~57期 3.944(943) 31(15) 0.8(1.6)
43期~52期 4.753(861) 9(5) 0.2(0.6)
33期~42期 3.579(344) 13(0) 0.4(0.0)
23期~32期 3.536(237) 9(0) 0.3(0.0)
22期以前 3.578(179) 60(1) 1.7(0.6)
合計 29.826(5.100) 185(55) 0.6(1.1)

2011年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
59期以降 11.315(2.811) 89(46) 0.8(1.6)
54期~58期 4.293(1.003) 33(17) 0.8(1.7)
44期~53期 4.994(982) 10(3) 0.2(0.3)
34期~43期 3.552(345) 11(2) 0.3(0.6)
24期~33期 3.531(237) 23(2) 0.7(0.8)
23期以前 3.759(202) 80(4) 2.1(2.0)
合計 31.444(5.580) 246(74) 0.8(1.3)

2012年

修習期 弁護士数 >取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
60期以降 11.852(2.900) 128(60) 1.1(2.1)
55期~59期 4.756(1.063) 36(17) 0.8(1.6)
45期~54期 5.369(1.142) 14(9) 0.3(0.8)
35期~44期 3.546(362) 10(1) 0.3(0.3)
25期~34期 3.530(231) 24(6) 0.7(2.6)
24期以前 3.949(223) 77(5) 1.9(2.2)
合計 33.002(5.921) 289(98) 0.9(1.7)

2013年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
61期以降 11.508(2.873) 126(50) 1.1(1.7)
56期~60期 6.005(1.290) 63(32) 1.0(2.5)
46期~55期 5.781(1.298) 20(13) 0.3(1.0)
36期~45期 3.521(376) 9(1) 0.3(0.3)
26期~35期 3.547(240) 16(1) 0.5(0.4)
25期以前 4.084(244) 96(1) 2.4(0.4)
合計 34.446(6.321) 330(98) 1.0(1.6)

2015年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
62期以降 11.101(2.667) 140(70) 1.3(2.6)
57期~61期 7.265(1.640) 73(38) 1.0(2.3)
47期~56期 6.150(1.398) 28(15) 0.5(1.1)
37期~46期 3.589(396) 9(1) 0.3(0.3)
27期~36期 3.499(246) 21(4) 0.6(1.6)
26期以前 4.232(255) 95(6) 2.2(2.4)
合計 35.836(6.602) 366(134) 1.0(2.0)

2015年

修習期 弁護士数 取消請求者数 取消請求者数が弁護士数に占める割合(%)
63期以降 10.611(2.464) 93(45) 0.9(1.8)
58期~62期 8.336(1.940) 83(37) 1.0(1.9)
48期~57期 6.635(1.512) 31(20) 0.5(1.3)期
38期~47期 3.699(438) 10(2) 0.3(0.5)
28期~37期 3.417(259) 21(3) 0.8(1.2)
27期以前 4.428(268) 74(3) 1.7(1.1)
合計 37.126(6.881) 312(110) 0.8(1.6)

このデータは、弁護士登録取消し請求時の弁護士経験が5年までの者、10年までの者、15年までの者、20年までの者、25年までの者、25年以上の者に分けて算出したものです。

弁護士経験5年までの者について見ると、弁護士登録取消し請求者の弁護士数に占める割合の推移は、0.5→0.6→0.8→1.1→1.1→1.3→0.9(いずれも%。以下%は省略します。)となっており、2014年までは増加傾向にあり、2015年に初めて減少しています。

弁護士経験10年までの者では、0.8→0.8→0.8→0.8→1.0→1.0→1.0と推移し、2013年に増加したほかは横ばいの状況です。

弁護士経験15年までの者では、0.3→0.2→0.2→0.3→0.3→0.5→0.5とこれもほぼ横ばい、同20年までの者は、0.1→0.4→0.3→0.3→0.3→0.3→0.3と2010年に0.3ポイント増加した以外はこれもほぼ横ばい、同25年までの者は、0.4→0.3→0.7→0.7→0.5→0.6→0.6と2011年に0.4ポイント増加したもののそれ以外はこれもほぼ横ばいとなっています。

そして、弁護士経験25年以上のものでは、2.4→1.7→2.1→1.9→2.4→2.2→1.7となっており、0.7から0.2ポイントの範囲で増減を繰り返しています。このデータから読み取れることをまとめると次のとおりとなります。

まず、弁護士経験5年までの者については、弁護士登録取消し請求者の割合は増加傾向にあるものの、増加の割合は微増といえる範囲にとどまっている上、統計上の最後の年度である2015年に増加から減少に転じていることから、今後増減いずれの方向に進むのか、傾向を見極める必要がありそうです。それ以上の弁護士経験を有する者については、いずれも弁護士登録取消し請求者の割合はほぼ横ばいといってよく、増加の傾向は明らかには見て取れないといえます。

ただ、各年度別に経験年数ごとの割合を見ると、弁護士経験5年までおよび10年までの者の取消し請求者数の割合は、それ以上の経験年数の者の取消し請求者数の割合と比較してかなり高くなっていることが分かります。弁護士経験10年までの比較的若い弁護士が弁護士登録を取り消すことが多い(といっても全体からすると2%程度ですが)ということができ、これは経済的基盤が弱い者が競争にさらされた結果なのかもしれません。

まとめ

このように、実際のデータを調べてみると、廃業する弁護士は数としては増えていることは確かですが、それは弁護士の母数が増えていることによるものであり、弁護士数に占める廃業する弁護士の割合で比較すると、廃業する弁護士が増えているとはいえないようです。

ただ、経験年数の長い弁護士と比べると、若い弁護士の廃業は多いともとれるデータもあります。一方、全体に占める廃業の割合は低いと言ってよく、廃業に至廃業への心配よりもいかにさまざまなルートから仕事を獲得出来るかを考えることのほうが重要そうです。