法律事務所ランキングから弁護士の転職市場を考える

昨今、日本の法律事務所では、所属する弁護士の人数は増加の一途をたどっています。
その傾向は、特に企業法務・渉外系の法律事務所では以前から顕著でしたが、最近では従来の企業法務・渉外系法律事務所に分類されない法律事務所の中にも急速に人数を増やしている事務所が目立ってきています。 また、旧来のボス弁・イソ弁型の雇用体系ではなく、経験を積んだ弁護士を中途採用することによって事務所の戦力を強化しようとしている法律事務所も増えているようです。

このような最近の法律事務所の採用の傾向は、いったん就職したものの、さまざまな理由で転職を考えている弁護士にとってはチャンスということができます。 ここでは、就職、転職を考えている弁護士・司法修習生・司法試験受験生の方の参考となるよう、2017年の法律事務所ランキングを見てみることにします。

日本の法律事務所弁護士数ランキング

2017年の日本の法律事務所における所属弁護士数の10位までのランキングは下表のとおりとなっています。

順位事務所名主事務所所在地事務所所属人数合計弁護士数外国法事務弁護士数対昨年比増減人数

1 西村あさひ法律事務所 東京都 535 528 7 +19
2 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 東京都 425 417 8 +21
3 TMI総合法律事務所 東京都 388 372 16 +19
4 長島・大野・常松法律事務所 東京都 386 380 6 +26
5 森・濱田松本法律事務所 東京都 378 374 4 +12
6 弁護士法人アディーレ法律事務所 東京都 190 190 0 +30
7 弁護士法人ベリーベスト法律事務所 東京都 141 140 1 +36
8 弁護士法人大江橋法律事務所 大阪府 140 133 7 +9
9 シティユーワ法律事務所 東京都 139 139 0 +1
10 ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事務所 東京都 133 114 19 +6

相変わらず上位5位のいわゆる5大事務所の所属弁護士数がそれ以下の事務所を大きく引き離している状況に変わりはありません。1位から3位までの順位は昨年と変わらず、昨年5位だった長島・大野・常松法律事務所が4位に、昨年4位だった森・濱田松本法律事務所が5位となっています。5位の森・濱田松本法律事務所と6位の弁護士法人アディーレ法律事務所の所属弁護士数の差は184人となっており、大変大きな差がついています。
ただ、注目すべきなのは、6位、7位に入っている弁護士法人アディーレ法律事務所、弁護士法人ベリーベスト法律事務所の存在です。数年前までは、所属人数のランキングに登場するのはいわゆる企業法務・渉外系の法律事務所に限られていましたが、弁護士法人アディーレ法律事務所の登場を契機に、企業法務・渉外系以外の一般民事事件を扱い、多数の支店を有する法律事務所の名も見られるようになり、弁護士業界の新たな動きが感じられます。

主事務所の所在地に注目すると、100位までの法律事務所のうち、東京都が75、大阪府が14、愛知県が4、神奈川県が2、兵庫県・福岡県・新潟県・広島県・千葉県がそれぞれ1事務所となっており、相変わらず東京に大規模事務所が集中している状況となっています。

日本の法律事務所昨年比弁護士増加数ランキング

次に、昨年比の所属弁護士の増加人数の10位までのランキングは下表のとおりです。

順位事務所名主事務所所在地対昨年比増加人数

1 弁護士法人ベリーベスト法律事務所 東京都 36
2 弁護士法人アディーレ法律事務所 東京都 30
3 長島・大野・常松法律事務所 東京都 26
4 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 東京都 21
5 西村あさひ法律事務所 東京都 19
5 TMI総合法律事務所 東京都 19
7 弁護士法人心 愛知県 13
8 森・濱田松本法律事務所 東京都 12
9 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 東京都 11
9 弁護士法人ALG&Associates 東京都 11

増加人数では、5大事務所を抑えて、弁護士法人ベリーベスト法律事務所、弁護士法人アディーレ法律事務所が1位、2位を占めました。また、7位と9位に入った弁護士法人心、弁護士法人ALG&Associatesも含め、一般事件を扱う新興の多店舗型の法律事務所が大きく人数を増やしていることがうかがえます。 ここでも、前項に述べたのと同様に、最近の新しい弁護士業界の動きが見て取れ、興味深いところです。

日本の法律事務所外国法事務弁護士数ランキング

事務所所属人数で180位以内に入っている事務所のうち、所属する外国法事務弁護士の人数の10位までのランキングは下表のとおりになっています。

順位事務所名主事務所所在地外国法事務弁護士数

1 伊藤見富法律事務所 東京都 28
2 ハーバート・スミス・フリーヒルズ外国法事務弁護士事務所 東京都 26
3 ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事務所 東京都 19
4 TMI総合法律事務所 東京都 16
4 ホワイト&ケース法律事務所 東京都 16
6 アシャースト法律事務所・外国法共同事業 東京都 11
7 外国法共同事業・ジョーンズ・デイ法律事務所 東京都 10
7 スクワイヤ外国法共同事業法律事務所 東京都 10
9 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 東京都 8
9 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 東京都 8
9 ホーガン・ロヴェルズ法律事務所外国法共同事業 東京都 8

ここでは、アメリカ・イギリスのローファームとの外国法共同事業がランキングのほとんどを占めています。独立系の法律事務所は、4位のTMI総合法律事務所と9位のアンダーソン・毛利・友常法律事務所の2事務所のみとなっています(なお、伊藤見富法律事務所は、アメリカのモリソン・フォースターとの外国法共同事業です)。また、すべてが東京を本拠地とする法律事務所によって占められています。 外国法事務弁護士の性質からして当然のランキング結果ということができるでしょう。

世界の法律事務所売上高ランキング

なお、参考までに、2016年の世界の法律事務所の売上高ランキングを見てみましょう。

順位事務所名主事務所所在地総売上

1 Latham&Watkins(レイサム・アンド・ワトキンス) ロサンジェルス 26.5億ドル
2 Baker McKenzie(ベイカーマッケンジー) シカゴ 26.2億ドル
3 DLA Piper(DLA パイパー) ロンドン、シカゴ 25.4億ドル
4 Skadden、Arps、Slate、Meagher&Flom(スキャデン・アープス・スレート・マー・アンド・フロム) ニューヨーク 24.1億ドル
5 Kirkland&Ellis(カークランド・アンド・エリス) シカゴ 23億ドル
6 Clifford Chance(クリフォードチャンス) ロンドン 21.1億ドル
7 Freshfields Bruckhaus Deringer(フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー) ロンドン 20.3億ドル
8 Dentons(デントンズ) アメリカ、中国 20.3億ドル
9 Allen&Overy(アレン・アンド・オーヴェリー) ロンドン 20.2億ドル
10 Linklaters(リンクレーターズ) ロンドン 20.1億ドル

日本の法律事務所の売上高は明らかにされていませんので比較することはできませんが、世界の巨大法律事務所の売上げの巨額さには驚くばかりです。また、8位のデントンズは2015年に中国最大級の法律事務所と統合しており、今後もアジアを含む世界の法律事務所のボーダレス化が進むことを予感させます。 なお、この売上高ランキングでは、売上高100位までの法律事務所のうち、アメリカを本拠地とする法律事務所が85事務所を占めています。

法律事務所ランキングから分かること

これらの法律事務所に関するさまざまなランキングを細かく検証すると、いくつかのことが分かります。

準大手・中堅法律事務所の動向

所属弁護士数ランキングは、数の多い事務所に目を奪われがちですが、いわゆる準大手、中堅の法律事務所の動向にも着目すると、それらの法律事務所の多くは弁護士数を増やしています。中でも、虎ノ門法律経済事務所と弁護士法人朝日中央綜合法律事務所の2事務所は、この5年間で倍以上の所属人員に急増しています。岩田合同法律事務所、島田法律事務所、弁護士法人愛知総合法律事務所なども大きく数を増やしています。 これらの中堅法律事務所にも、弁護士増員の波は間違いなく及んでいます。

外資系事務所の動向

他方、外資系の法律事務所(外国法共同事業)は、所属人員数が減少傾向にある事務所が多くなっています。これはおそらく、外資系企業がアジアでの拠点を日本から中国・シンガポールなど他のアジア諸国に移しつつあることを反映したものと思われます。 中国などの発展の限界によっては今後どのように展開するかは不明確ですが、少なくとも今のところは外資系事務所の弁護士採用意欲は高くないといえるようです。

大阪の大手法律事務所の動向

大阪を拠点とする大手法律事務所は、増員・減員の双方に傾向が分かれています。 弁護士法人大江橋法律事務所、弁護士法人御堂筋法律事務所はいずれもここ数年大きく所属弁護士数を増やしていますが、北浜法律事務所・外国法共同事業、弁護士法人淀屋橋・山上合同は逆に減らしています。

インハウスローヤーの動向

10名以上のインハウスローヤー(社内弁護士、組織内弁護士)を擁している企業は、2017年の時点で20社が存在しています。そのうち最も多数のインハウスローヤーが所属しているのはヤフー株式会社(27名)です。 全体としてインハウスローヤーの採用は増加傾向にあり、特に60期以降の若い弁護士がインハウスローヤー全体の4分の3を占めています。 インハウスローヤーの採用に当たっては、ある程度経験のある弁護士を中途で採用することがよく行われていますし、経済的な安定感もありますので、今後転職先として重要な検討対象になるでしょう。 なお、最近は国や自治体もインハウスローヤーを置いていますが、その多くは任期付公務員の形をとっているため、永続的な転職先と考えることは難しいでしょう。ただ、任期付公務員としての経験はその後の転職にも生きると考えられますので、やはり転職先として検討すべき対象といえます。

海外会計事務所系の法律事務所の動向

DT(デロイトトーマツ)弁護士法人やEY(アーンスト・アンド・ヤング)弁護士法人など、英米の会計事務所系統の法律事務所が所属弁護士数を増やしつつあります。まだ規模的には大きいものではありませんが、その出自を考えると、今後数年でどのような採用動向に転ずるのか注目しておきたいタイプの法律事務所といえます。

司法試験合格者数との関係

平成28年の司法試験合格者数は1,583名となり、前年の1,850名から大きく減少しました。この平成28年合格者は修習期でいうと70期になりますが、合格者数の減少によって70期の採用にどのようになるのかも注視したいところです。

まとめ

本文中にも述べたとおり、所属弁護士数ランキングを見ると、ここ数年これまでとは違った傾向を見ることができます。それまでの企業法務・渉外系法律事務所だけでなく、国内一般民事事件を業務の中心とする新興の多店舗展開型の法律事務所が急速に所属弁護士数を伸ばしてきています。設置した各支店に弁護士を配属することからすれば、多数の弁護士を採用する必要があることは当然のことでしょう。これらの新興法律事務所がどのように発展していくのか、これらに続く法律事務所が多数あらわれるのかなど、しばらくこれらの法律事務所の採用動向に注視して行く必要がありそうです。

また、5大事務所を中心とする従来の大規模法律事務所についても、今後海外ローファームとの結合、提携が一層進むにつれて、採用動向に変化があらわれるのかなどについて注目されます。