弁護士ドットコムキャリア

法律事務所から大手企業のインハウスロイヤー、そしてベンチャーへ 挑戦を続ける弁護士が大切にしてきた価値観とは

近年、企業法務の重要性が増すとともに、インハウスロイヤーのニーズも高まっています。今回ご紹介するのは、インハウスロイヤーとして15年以上のキャリアを持つベテラン弁護士です。同氏は、弁護士として法律事務所に数年間勤務した後、大手保険会社へ入社し、子会社の法務立ち上げを担当してきました。しかし、本社へ復帰した際に感じた大規模組織ならではの窮屈さをきっかけに、ベンチャー企業への転職を決意します。本記事では、同氏がキャリアの軸を考えるうえで大切にしてきた価値観について探っていきます。

法律事務所での経験から企業法務への興味を持つように

——弁護士になろうと思われたきっかけやタイミングはありましたか。

大学が法学部でしたので、司法試験や国家公務員試験などの資格取得を目指す同級生が多く、自分自身も手に職をつけたいという思いがあり、司法試験の勉強をしていました。事業を営む親が顧問弁護士の先生にお世話になっていたこともあり、弁護士として世の役に立つことの素晴らしさを感じていたのも大きかったです。

——企業法務の領域で長年ご活躍されてきましたが、修習後の数年間は地方の法律事務所に勤務されていますね。

私が在籍していた当時は、企業法務と一般民事を半々ずつ扱っていました。企業法務では、自動車、食品、建築など非常に幅広い分野の企業に対する顧問業務をメインに行い、顧問先企業の方からの紹介という形で、離婚や相続といった一般民事も手掛けていた形です。

——法律事務所の業務のなかで、企業法務に興味を持たれるようになったのですか。

そうですね。一般民事だとすでに発生した揉めごとに対してどう解決していくかという発想が業務の中心になりますが、企業法務では、開発をはじめ、さまざまな形で前向きに事業に関わって役に立つことができると感じていました。もちろん事態が悪化してからご相談をいただくこともありましたが、本来であれば体制や規則の整備などによってトラブルを未然に防ぐという予防法務の観点からも貢献できるはずです。ただ、法律事務所の弁護士として企業の外から関わろうとすると、どうしても単発の案件ごとに対応していくことになり、サポートできる範囲には限界があります。私としては、そうした点にもどかしさや寂しさを感じていました。

——個人の感情に寄り添う必要があるという点で、一般民事にハードルを感じる弁護士の方もいらっしゃいます。

たとえば離婚訴訟の場合、クライアントに寄り添う姿勢としては、慰謝料を1円でも多くするというのがあるべき姿だと思います。ただ、客観的に見ると「どっちもどっち」というケースもありますよね。刑事事件でも、執行猶予に持ち込むべき場面で個人的に「反省したほうがよいのでは」と思ってしまうこともあり、確かに自分としてはクライアントの感情に寄り添う意識が足りていなかったように感じます。

しかし、当時のボスに「負けるべきときにはきちんと負けて、本人に納得してもらうのも弁護士の仕事のうちだよ」と教えられたのが、とても印象に残っています。クライアントに寄り添って勝たせることだけが弁護士の仕事ではありません。本来あるべき筋の結論にたどり着かせるために、弁護士としての使命感や価値観をもって判断するということこそが、一般民事のやりがいだと思います。

——とはいえ、先生としては企業法務を専門にしていきたいと考えられたわけですよね。

はい。短絡的かもしれませんが、企業法務を極めてみたいと考えたときに、まずは一度企業のなかに入って仕事をしてみようと思うようになりました。ただ、当時の勤務先の周辺には企業法務の採用募集を行っている企業がほとんどありませんでした。そこで、勤務地を絞らず探した結果、一番最初に決まった企業が大手保険会社だったというわけです。

当時まだ珍しかったインハウスロイヤーへの転向

——当時、法律事務所からインハウスロイヤーへ転向するキャリアはまだ珍しかったのではないでしょうか。不安はありませんでしたか?

組織内初のインハウスロイヤーとして仕事をされていた1期上の先輩の話を聞いていたので、企業内で働くことに対するイメージはある程度できていましたし、自分の性格的に向いていそうだなとも思っていました。前向きな仕事にチームで取り組んでいけそうという点が魅力でしたね。

——大手保険会社に入社された後は、すぐに子会社へ出向されて法務の立ち上げに携わられてきました。専門性の高い領域になると思いますが、業界知識はどのようにしてキャッチアップされていきましたか。

他の部門の社員と同じように簿記やファイナンシャルプランナーなどの資格試験に向けた勉強を行いつつ、業務のなかで少しずつ知識を身につけていきました。親会社に弁護士資格を持つ法務部員もおり、業務は基本的に親会社のやり方を見本に進めていたので、やりやすかった印象があります。

——長期にわたって子会社へ出向され、組織や事業の拡大に貢献されてきました。

一番最初は全社で3-40名規模の会社でしたが、私が異動するときには500名前後にまで拡大していましたね。上司からは親会社での経験も積んだほうがよいとアドバイスされていましたが、なかなかタイミングがあわなかったのと、なにより自分自身すごく楽しく働けていたので、結果として長年そこで仕事をすることになった形です。むしろこのままずっと子会社にいてもいいと考えていたくらい、居心地の良い職場でした。

——本社に復帰されてからのお仕事はどうでしたか。

本社は営業職員を含めると数万人規模の組織で、法務部門は当時数十名。そのうち有資格者は複数名在籍していました。法務部門は複数のラインに分かれており、私はそのうち一つのラインのマネージャーを担当することになりましたが、とにかく政治的な動きをしなければならなかったことが印象に残っています。

業務が細分化されているため全体像は見えない一方、関係所管の人数が多いため他人行儀になってしまうことにも問題意識を感じていました。子会社では、新しいことを開拓していくために部門を超えて協力するという風土があったので、より一層カルチャーギャップを感じましたね。

もちろん大きな組織であるからこそのメリットもありますが、自分としては、やはり何らかの形で法務として事業の発展に貢献できることにやりがいを感じていたので、転職を考えるようになりました。弁護士ドットコムキャリアのコンサルタントの方には、法務立ち上げフェーズの企業を中心に紹介していただきました。

どうせだったらまったく違う分野でチャレンジしてみたい

——金融という専門性の高い分野からの転職となりましたが、業界については意識されましたか?

同じ業界であれば知識をそのまま活すことができるという意識は頭の片隅にありましたが、これまで培った専門知識を使って仕事をしたいということであれば、前職の会社に在籍しつづけることがベストな選択肢になると思います。どうせだったらまったく違う分野でチャレンジしてみることのほうが、自分にとっては価値があると考えました。

——実際にこれまでの専門領域とは大きく異なるベンチャー企業へ、法務責任者として転職されました。約半年ほど仕事をされてみて、いかがでしょうか。

やはり分野としては全然違いますので、専門領域については勉強中です。ただ、契約書や商標業務などは子会社出向時代にひととおり経験しており、共通する部分も多くありますので、小規模法務組織で培った幅広い経験や知見が活きているなと思うことも多いです。

——これまでの会社とのギャップはありましたか。

一番大きなギャップは、スピード感ですね。たとえば取締役会資料の作成一つとっても、前職では数週間掛かっていた仕事が、現在の会社では数日程度。前職では完成度や関係所管の調整が重要視されていましたが、今はとにかく速さが大切です。

また、従業員のみなさんのチャレンジ精神の高さも特徴的だと思います。前職では、「こちらの案のほうがより確実ですよ」という保守的な意見が求められましたが、今は「こういう事業をやりたいんだけど法的にどう解釈したらよいか」という形で相談を受けることが多いです。リスクのとり方を含めて前向きに事業を検討できるという点では、非常にやりがいがありますね。

——事業部と密にコミュニケーションを取りながら進められているんですね。

そうですね。事業部と一緒にミーティングをして、事業のことを教えてもらいながら進めています。常にあらゆる人たちと接点が持てるというのもベンチャー法務として働く魅力の一つだと思います。「法律がそう言うんだったら仕方ない」と、法務としての意見を尊重していただけるのも、そのぶん自分が考えたことを実現しやすいので、すごく良いなと思うポイントですね。

——逆にベンチャー企業に入社して困った点などはありますか?

中途採用の方が多いので、従業員によって法務リテラシーに差があるのには、当初少し戸惑いました。部長やチームリーダーなどいわゆる管理職レベルの方々のレベルは高いのですが、現場の社員に対しては、取引先と契約書のやり取りをするのにも細かいところまでこちらから指示を出さなければならない場面があります。ただ、会社全体の法務リテラシーを底上げしようという視点で見れば、これも楽しくやりがいがある仕事だと思います。若くて良い人たちが多いので、「自分ががんばって知識を提供する」という意識を持つようにしています。入社して半年程度たちましたが、若い方々からも突撃で相談してもらえるようになっています。

自分が大切にしたい価値観を優先させて行動に移す

——これから新しくチャレンジしようとお考えの弁護士のみなさんにメッセージをお願いいたします。

今の職場には、自分のスキルアップや転職を前提に、キャリアについて自身でプロデュースしていこうという意識を持つ人が多くいます。一方、自分のこれまでを振り返ってみると、キャリアについて計画的に考えたことはほとんどなかったように思います。ただ、私の場合、今取り組んでいる目の前の仕事にやりがいを感じられているか、端的に言えば「楽しい」と思えるかどうかという価値観をずっと大切にしてきました。

私の経験からいえることは、自分の好きなことを、自分の価値観を信じて突き詰めていくことの大切さです。「起業して社長になる」でもいいですし、「とある領域の専門性を極めたい」でも良いと思います。もちろん「大手に行かないと」という価値観もあると思います。いずれにしても、自分が大事にしたい価値観に確信が持てたら、それを優先して行動することを心がけるとよいのではないでしょうか。

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