弁護士ドットコムキャリア

ゴミ袋やポットのお湯の交換は法務の仕事? ◆一人法務のキャリア戦略 vol1


弁護士ドットコムキャリアでは、弁護士資格をお持ちでない法務の方の転職支援も実施しています。今回は、法務歴6年目、2社で一人法務として奮闘し、3社目で100万円の年収アップを実現した石田さん(仮名、34歳)に、キャリアや苦しんだことや学んだこと、一人法務としてキャリアを積み上げるコツなどを聞きました(2022年1月インタビュー)。

料亭のバイトの縁で法律事務所に

ーーどういう経緯で法務のキャリアが始まったのでしょうか。

 私は地元にある国立大学を卒業し、その後は法科大学院に進学しました。法科大学院卒業後に、大学時代からお世話になっていたアルバイト先の料亭でおかみさんに「弁護士事務所の食事会があるから、もしかしたら顔つなぎになるかもしれない」と法律事務所を紹介してもらったのが法務のキャリアの始まりです。法科大学院のエクスターンシップ先として配属された弁護士事務所の先生方が食事会に参加されていて、弁護士1年目の先生が私のこと覚えてくれていて声をかけてくれたんですよ。「司法試験ダメだったのでこれからどうしようか迷っている」と伝えたら、「ちょうど産休で1人事務員に欠員が出てるから来ない?」と言ってもらって、就職が決まりました。最初は法律事務所の事務員になったわけです。
 5年間、合格を目指して事務員として働きました。県内では大きな事務所だったので、さまざまな分野を取り扱っていました。企業の顧問弁護士をしていた弁護士を見て「会社の中から法務を見てみたい」というのもあり、企業に入りました。

ーー事務員として働いていた事務所はどのようなところだったのですか。

 地元と言っても、県内では大規模な事務所でした。ある市の顧問もしていたほかに破産管財の仕事もありました。書類の作成の手伝いもする中で、法律文章の書き方を指導してもらい、過去の事件も含めて書類を見せてもらうことで、学びの多い時間でした。

一方で、もともと法科大学院では知的財産権を専攻していて特許や著作権などに興味がありました。家事事件などと比較するとそちらの方が興味があったのですが、当時いた事務所だと、知財の案件は対応できる先生がいなくて断っていたんです。企業の法務担当として就職すれば、知財に関連した仕事があるんだろうなという期待感はかねてから持っていました。

ーー事務所によって、扱う事件に色が出るのでしょうか。

事務所ごとにやっぱり色ってすごく出ますよね。入ってみないとわからないところは当然ありますが、ホームページ、特に得意分野や主に取り扱っている事件を見ると、おおよその傾向はわかりますね。その特性や志向に、自分がマッチしているかどうかを見極めるのは大事だと思います。

入社2週間後に聞いた「上場は多分できない」

ーー1社目の話を教えてください。どんな会社だったのでしょうか。

1社目はITベンチャーの開発会社でした。ゲーム開発を行っていて「パブリッシャー」と呼ばれる自社の名前でゲームを提供する会社で、企画、リリース、販売までやっている会社でした。社員は100人くらいいました。

はじめは、社長室所属となって、直属の上司は取締役でした。「これから上場する」「知財も今後強化したい」と聞いていたので、いろいろ経験できると期待して入社したのですが、2週間後に経営状態があまりよくないと聞かされ、1カ月後には「上場は多分できないと思う」と言われ愕然としました。

入社初日から取り掛かったのは海外にあった子会社のクロージングで、英語もままならない状態で四苦八苦しながら、3カ月くらいかけてなんとか終わらせました。契約書の作成などでは「この契約は、民法上どの類型にあたるのでしょうか」と聞いても、「自分で考えろ」と言われ、誰も分かる人はおらず、苦労をしました。学んできたことが、すぐに役立つわけではないんだと思いましたね。ゲームの開発で、特許に抵触することはないかと関係機関に電話で問い合わせて調べていくような業務もあったりと、大変ハードな日々でしたが、自ら必死に情報を取りに行く毎日でとても勉強になりました。

ーーいきなりハードな環境だったわけですね。

入社前は「法務部」といえば上場企業のカチっとしたものしかイメージしかなかったんですが、部はないし、2カ月後には所属していた社長室もなくなりました。その後、「お前は今日から管理部だ」と言われて、総務担当になりました。仕事内容はと言うと、社内イベント運営や採用関連業務、新人研修を任されました。自分自身は新人研修を受けたことがないのに、本を2、3冊読んで「ビジネスマナーとは何か」を教えたり、新人研修を担当しました。契約書のチェック作業もやっていたのですが、ゴミ箱の管理やポットのお湯の補充までも管轄でしたね。「総務なんだから」と言われれば、「法務です」と言い返して、喧嘩になったりしましたが、今思うと会社という組織を学ぶとてもいい機会になりました。あっという間に2年が経ちました。

ーー1社目は、どうやって探したのでしょうか。

管理部に特化したエージェントを使ったんです。「ちょうど法務人材を探しているところがあるので、ぜひ」と強くプッシュされて、私もよく考えないで「ではそこで」と言って決めてしまいました。

ーー経営状態が良くなかったようですが、入る前に何か思い当たるものはありましたか。

今となっては確かなことはわかりませんが、外から経営状態が悪いというのは、エージェントも含めてわからなかったと思います。
 とはいえ、一つの指標として「法務がいない」はよく注意する必要がありそうですね。辞めてしまって「いない」ということでなく、そもそもいないとか、ずっと欠員のままになっているところは特に要注意かと思います。顧問弁護士の先生も、案外経営の中身までみていなかったり、なかなか相談に乗ってもらえないこともあるようですから。

よしみで決めた2社目

ーー2社目とは、どのように出会ったのでしょうか。

1社目の会社に勤めていた人が、その2社目の会社に就職していて、知り合いに声をかけたようで、私もその一人として声をかけてもらいました。

ーー2社目に入る前に、もっと探そうとか思わなかったですか?

今思えば、もっとよく探せば良かったと思います。ただ、1社目は、人間関係がよかったんですよ。「お前法務だからってお高くとまって座ってるだけじゃダメなんだぞ、お前が自分で聞きに行け」と上司に言われて業務をおこなってきたので、事業部の社員に「今度締結する予定の契約の、〇〇の部分が詳しくわかる資料をください」など自分から声をかけて回っていたので、、いろんな人と仲良くなっていったんです。事業部の人たちは、私を法務というより管理部の人だと思っていたみたいで、(いい意味で)何をやっている人かわからないと言われました。

1社目からいた何人かの社員も、みなさん私が来てくれるなら嬉しいと言ってくれて、知っている人しかいないなら楽だなと思いました。今振り返ると少し安易に決めてしまった感は否めません。

ーーただ実際には、人間関係が担保されてるってすごく大きいですよね。

はい、そうなんですよ。

ーー2社目での、実際の業務内容は具体的にどうだったのでしょうか。

一応、「法務」として入社しました。私が入る2か月前くらいから、東京で多くの案件をとってきて、短いスパンでまわすという開発のサイクルができあがって、元々少なかった契約の種類が突然増えたんですよ。「回せないから法務担当が必要」というのも、人材募集の背景にありました。法務だけでなく、プロジェクトの工数管理や予算管理、社員の勤怠やその他事務所運営などの総務関係も担当でした。

ーー一般的に、予実管理は法務の仕事なんでしょうか?

法務の仕事じゃないと思うのですが、、、実際、新卒の研修や評価制度の作成まで担当しました。

部の建て付けは事業推進だったので、コンセプトとしては「事業部側だよ」「法務もコストセンターでなく、利益を生み出していく側なんだ」ということでした。2年目からは、事業推進のメンバーも増えたことから、、新たな試みとして、全社向けの知的財産法の勉強会を実施しました。「フリー素材はどこまでフリーなのか」、プロジェクトマネージャー向けに「請負と派遣の違い」「契約書の読み方」などのテーマで行いました。聞いているほうが飽きないように、視聴者参加型のコンテンツを盛り込むなどの工夫をして、社内でも好評でした。

法務の仕事とはいえ、「契約書を見る」という定型的な仕事を与えられてないからこそ、何か自分で生み出していきたいという気持ちがでてきたのはよかったかと思いますし、今でもその経験や気持ちは役に立っています。

身についた「自分のやりたい形に変えていく」姿勢

ーー知財の勉強会をやるきっかけはどんなものだったのでしょうか。

開発した成果物の中に著作権侵害ではないかと指摘されることがあり、実際は侵害に当たらなかったのですが、そもそも開発メンバーの知的財産権への認識が甘いのではないかということが会社内で問題となりました。事業推進の上司が統括していたこともあり、私が担当することになりました。担当する代わりに、勉強会の内容と、実施タイミングだけ任せてもらっていました。「どうやって、自分のフィールドにもってくるか」を考えながら、業務にあたっていました。

ー一般的に一人法務の場合、「法務だけ」という感じにはならないものですか。

絶対とは言いませんが、ほぼならないと思いますよ。「法務」と聞くと、みんな身構えてしまうので、限られた情報しか入ってこなくなるんですよ。待っていて入ってくる情報は、大した情報じゃないし、その情報だけで、契約書をしっかりチェックできるわけではないと感じています。普段からいろんな事業部の人と仲良くしておくと、次に回ってきそうな案件や、納期、入金など事業サイドの契約上心配が把握できますので。

契約書で条件面での不備があっても「知らなかった」と言えばそれで済むという考え方もあるとは思いますが、結局会社側が困るだったら、自分から不安な案件も含めて情報を取りに行ってしまったほうが楽なんですよね。「法務だから、契約書しか見たくない」という人は一人法務は向いていないような気がします。

ーーまわりの一人法務の人も、似たような感じですか。

Twitterなどで知り合った人を見ていると、仕事が来るのを待ってるだけの人はあんまりいない感じがしています。一人法務でうまくやっていくには、自分から動くのが良いと思ってます。

ーー社内での積極的な動き方も、自身の今のキャリアにつながったと感じていますか。

それは本当に実感しています。率直に言って、1社目、2社目で、自分がやりたいことができていたわけではありませんが、「どう自分のやりたい形に変えていくか」という姿勢が身につきましたし、大事だと思います。
契約書についていえば、うまくいかなかった時に「あの案件の契約書見せて」と言われたらもう負けな気がしていて、「こういうことを書いてあればね」と言われると落ち込むんですよね。「わからなかったから仕方ない」と思いつつ、締結前にこれを聞いておくべきだったなというのはメモした経験が何回かあります[第二回に続く(2022/08/06公開)]。

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