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コンプライアンス部から少人数法務、大規模法務部まで…多様な経験の中から見えてきたこと – 「書ける経験」を残していくことの大切さ


契約書の作成やリーガルチェック、コンプライアンスの徹底、IPOやM&A対応など、法務の仕事は多岐に渡ります。多岐に渡るからこそ、業界や企業規模、事業内容によって、さまざまな業務を幅広く担うか、狭く深く専門性を高めるのか、企業によって「法務の在り方」は異なります。
今回お話しを伺った鈴木さん(仮名)は新卒から今までコンプライアンス業務や法務業務に携わり、転職のたびに異なる「法務の在り方」を経験してきました。これまで在籍した3社でそれぞれ何を感じたのか、そこでどのような目標が生まれたのかを語っていただきました。

新卒で経験したのは、金融業界ならではの「守りの法務」

私は法務・コンプライアンスとして3社でキャリアを積んできました。新卒で入社した証券会社ではコンプライアンス部門に所属し、主にコールセンターからの質問対応と取引データのモニタリングを担当していました。顧客からの相談がコールセンターに寄せられた際、その対応が証券取引法やコンプライアンスに照らし合わせて問題がないか、スタッフが確認したい時に頼られる存在です。

コンプライアンス部門だけで10名所属し、これは相談件数が多いからという理由だけではなく、金融業界という業界の特性が反映されたものです。銀行や証券会社には、適切な取引を行っているか調べるために定期的に金融庁の検査が入ります。金融庁検査で問題が発覚すれば業務停止命令が下る可能性もあるため、コンプライアンスの遵守を徹底するためにそれだけの人数を割いていたのです。この業界特性から、どうしても「守りの法務」にならざるを得ない部分もありましたが、度が過ぎると保守的な組織になってしまうのでバランスを取ることに注力していました。

その後、社内のジョブローテーションでシステム部へ異動となります。コンプライアンス部門では契約書のリーガルチェックなど一般的な法務業務を経験する機会がなく、異動をきっかけに「もっと法務業務を突き詰めたい」と考えるようになり、モバイルサービス事業とフィナンシャルサービス事業を手掛けるIT企業へ転職しました。

法務2名で、契約法務からM&Aまで幅広い業務を担当

コンプライアンス部門での経験はあったものの一般的な法務業務は未経験だったことから、「未経験OK」、「確固たる基盤をもつ上場企業」、「幅広い業務を担当できること」を軸に転職活動を進め、巡り会ったのが2社目です。2社目は1社目と打って変わり、東証プライム上場企業でありながら法務グループは少人数であり、数名程度であらゆる法務業務を担当していました。

契約書の作成とレビューをはじめ、契約書の管理、株主総会や取締役会の運営まで行い、時にはM&Aにも携わるほどで、多忙ではあったものの業務範囲の広さは希望通りでした。特に、契約書に関しては事業部から新規契約の相談を受けると法務グループでひな型を作成して事業部に提供していたので契約書の作成スキルが着実に上がり、この環境で改めて法務担当者としてのベースを固めることができたと感じています。

法務の幅広い役割を一通り経験し、法務人材としてこれから自分が目指したい道も定まりました。狭く深い領域で専門性を高め、法的議論ができるようになりたい。そう考え、2022年秋に現在の不動産企業へ転職しました。

弁護士も多数いる大人数の法務部で、専門性を高めていく

当初はIPを扱うゲーム業界に興味があり、内定もいただきました。しかし、現在の企業は過去約20年間にわたって法務部へ寄せられた相談をすべてデータベース化し、ナレッジとして蓄積していました。より専門性を高めていくにはとても魅力的な環境で、ワークライフバランスと給与のバランスも良かったことで入社を決めました。

いまは契約書のレビューや法律相談を主に担当しています。不動産業界ではやはり不動産の売買や賃貸に関する契約書が多く、民法や借地借家法、宅建業法などさまざまな法律を考慮してレビューしなければなりません。リーガル業務が多い分、関連法規への深い理解が求められ、一つひとつのレビューが自己成長につながっている実感がありますし、データベースを検索すればすぐに過去の相談実績が出てくるので仕事がやりやすいです。

ただ、転職後に感じた個人的な課題もあります。それが法的素養の不足です。法務部内には弁護士も多数所属していますが、弁護士資格の有無による業務の区分けがありません。そのため、法的素養を身に付けなければミーティングなどで積極的に法的議論に加わろうとしても躊躇してしまいます。この課題を解決するため、弁護士資格の取得を考えています。夜間の法科大学院に通い、法務としての地力を培うことが目標です。

ただ、仮に弁護士資格を取れたとしても法律事務所で働こうとは思っていません。企業法務はワークライフバランスも良く、この働き方が自分には合っています。それに、不動産取引は思っていた以上にバリエーションが豊富です。いまは企業の法務担当者として地力をつけ、不動産に関わる法務を極めたいと思っています。

法務の転職を考えている方へ

私はこれまで2回の転職を経験しました。その転職経験から言えることは2つあります。

1つは、法務の経験年数が浅い方は幅広い業務を担える会社を一度は経験した方が良い、ということです。少人数のグループだった2社目で本来は総務部が担うような株主総会や取締役会の運営業務にも携わり、これが分業制の現在の会社で評価されました。一通りの業務を経験し、自分が求めるものを正確に理解しておけば企業側にとっても需要と供給のマッチングを図りやすく採用しやすいのだと思います。

もう一つは、転職を意識すると「職務経歴書に書ける経験を積んでおこう」と考えるようになり、これが面接などで非常に活きる、ということです。これは私の体感ですが、法務の中途採用では未経験採用がほとんどありません。どの企業も即戦力を求めています。契約書関連の経験がなかったため2社目への転職時には未経験採用の求人に絞って探しましたが、1社目で少なからずコンプライアンスの経験は積んでいました。即戦力を求める企業は、法務人材が「前職で何をしてきたか」を重要視します。そこで、職務経歴書に書けるような実績を残せるように動いておけば転職時の高評価につながるのです。

これはIPOやM&Aのような大きな出来事でなくても構いません。私の場合、弁護士ドットコムが提供しているクラウドサインと社内システムのAPI連携を提案したことがありました。API連携とは自社のプログラムやサービスを外部とやり取りする仕組みのことで、事業部から契約におけるやり取りの簡略化を相談され、自動で契約書面を送付するAPI連携を提案したのです。法務部ではよくある相談であり、よくある解決法かもしれません。しかし、このケースも面接の場では個別具体的な課題に対して自ら解決策を提案し、法務として適切に解決したと見なされます。実際、このエピソードは今回の転職活動の面接で高く評価してもらいました。

業界や企業規模、事業内容により、法務の仕事や役割は異なります。それでいて転職市場では即戦力が求められます。一つの企業における法務の在り方と他の企業の法務ニーズが相反しているように見えますが、それでも転職を意識して普段の業務の中で「法務の実績」を蓄積しておけば、自分の希望する業界や企業へ転職できるはずです。

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