選択肢が飽和する時代の賢いキャリアプランニング術
岩井 洋樹(いわい ひろき) 氏
弁護士ドットコム株式会社 リーガルソリューション事業本部 キャリア事業 エキスパートコンサルタント。2000年代初頭より人材ビジネスに従事する。
10年で激変、弁護士の転職市場
──業界20年超を振り返って、弁護士の転職市場にどんな変化を感じますか
岩井氏:
私が法律系の人材業界に入った2000年代初頭はいわゆる小泉・竹中構造改革の時期です。労働者派遣法の規制緩和に伴い、法律事務所向けの事務員・パラリーガルの派遣や紹介が徐々に増えていきました。ただ、弁護士の転職相談はまだ珍しかったです。いまのように企業に就職するケースも限られていて、所属事務所を辞めるとしたら独立、転職にしても知人の紹介がほとんどでした。
──市場が大きく動き出したきっかけは?
岩井氏:
やはり司法制度改革でしょう。ロースクール制度ができ、2006年から新しい司法試験がはじまったことで弁護士人口が増えました。2010年代に入ると、新制度で合格した世代が独立して採用側にまわります。企業内弁護士も増え、現在は約3600人(JILA調べ)、大規模化する事務所も出てきました。こうした流れの中で、弁護士の転職を支援する事業者も増えました。弁護士ドットコムの弁護士キャリアもそのひとつで、設立は2016年です。我々のような「エージェント」のほかにも、求人情報が集まる弁護士に特化した「転職サイト」もあります。
複数手段を駆使して求人を比較
──現代の弁護士の転職活動は、昔からどう変わりましたか
岩井氏:
いまも昔も先輩や知人からの「紹介」は有力な選択肢のひとつです。実際に働いている人から誘われると、安心感がありますよね。ただ、知っているからこそのしがらみもあって、「合わない」と思っても断りづらい、辞めづらいという面もあります。現在一般的なスタイルは、紹介を受けつつ、エージェントや転職サイトも活用して、条件を比較するというものです。
──複数の手段を使い分けるのはなぜ?
岩井氏:
一番の理由は「自分の市場価値を客観的に知るため」でしょう。紹介だけでは提示された条件の評価が難しいですよね。この点、弁護士ドットコムの弁護士キャリアには、弁護士領域で過去10年にわたる膨大な支援実績に基づいた、数千人分の独自の年収データベースがあります。面談では「適正年収」を聞かれることが多いのですが、似たようなキャリアの方を検索して、一定の目安をお伝えしています。特に街弁事務所は年収の幅が広いので、相場を知っておいて損はないでしょう。自身の市場価値を把握しつつ、関心のあるものに応募していくというのがトレンドです。忙しい中、情報収集を効率化するために複数の手段を使っているということだと思います。
「納得」を大事に、ミスマッチ防ぐ
──情報が多すぎて逆に大変ということはありませんか
岩井氏:
人それぞれですが、情報の海に溺れてしまうケースはあります。大体2パターンに分かれていて、1つ目はエージェントの勧めのままで進めてしまうパターン、2つ目は情報を整理できないために転職活動をストップするパターンです。ただ、前者については「ミスマッチだった」と言って、ほどなく転職活動を再開される方が珍しくありません。
──ミスマッチをどうやって防いでいますか
岩井氏:
弁護士ドットコムの弁護士キャリアでは「目前の内定という結果よりもご本人の納得感」をモットーにしています。何事も納得していないと前向きに取り組めないですよね。でも、選択肢が多いからこそ、一人で納得するのも難しい。キャリア形成には正解がないからこそ、ご本人にとってどれが一番良いかを共に考える「壁打ち相手」や「伴走者」になって、一緒に「納得」をつくっていければと思っています。
──具体的にはどういうサポートをしていますか
岩井氏:
キャリア面談では「将来どうなりたいか」や「どんな価値を大事にしているか」という定番の質問があるんですが、困った顔をされる先生が多いんですね。弁護士という仕事は、クライアントワークという意味ではやることが明確なので、目の前の案件を解決することに集中しすぎるあまり、「本当は何をやりたいのか」を見失いがちなのかなと思います。なので、私の場合はパーソナリティを深掘りするようにしています。なぜ転職を考えているのか、いまの環境にどんな不満があるか、弁護士を目指した理由、学生時代の興味などを聞いていくうちに、ご本人の中で思考が整理されてくるようです。たとえば、ある先生は相当なゲーム好きだと分かったので、関連する企業をご紹介しました。金額だけならもっと条件のいい内定先もありましたが、「いま行かないと後悔する」ということで、そこに入社されました。
──エージェントによって、紹介できる案件が違うんですね
岩井氏:
募集側とも積極的にコミュニケーションをとって、できるだけ多くの選択肢を用意するとともに、ミスマッチを減らせるように努めています。中には 弁護士からメディア記者に転身|対話で見つけた新しいキャリアの記事で取り上げた「記者」という選択肢もあったりする。応募するかどうかはともかく、ご本人が考えもしなかったような求人をご紹介すると、やはり喜ばれます。選択肢をどれだけ増やせるか、その中からいかにご本人に合ったものを提案できるかが差別化ポイントだと考えています。
忙しいからこそ、「外」を見ておく
──最近の転職相談のトレンドはありますか?
岩井氏:
ワークライフバランス重視で、年収が下がってでもインハウスを希望されるというケースは相変わらず多いです。特に裁判官や検察官、女性の先生からよく聞きます。夜間や土日祝日にしか面談できないことが多いのですが、弁護士ドットコムの弁護士キャリアはコンサルタントの人数もいるので柔軟に対応できます。忙しい方が多いので、連絡に対するレスポンスのスピードも大事にしています。
──年収が下がる転職もあるんですね
岩井氏:
一般的にエージェントは「成約」を優先しがちだと思われがちですが、私たちは「入社後のご活躍」こそが真のゴールだと考えています。特に弁護士ドットコムの場合、キャリア支援以外でも多くの先生方にご利用いただいているプラットフォームとしての責任があります。ですから、目先の決定を優先するような一過性の支援ではなく、常にユーザーファーストであることを徹底しています。そもそも、私自身、目先の数字を追うようなスタイルであれば、20年もこの仕事を続けられなかったはずです。転職支援には一人ひとりの人生という「小説」を読ませていただいているような面白さがあります。かつて転職を支援した先生が独立して、今度は「採用したい」と求人をくださるような、十年単位での息の長い関係を築けるのもこの業界ならではの喜びです。
──最後に転職を検討している弁護士の先生方へメッセージをお願いします
岩井氏:
転職エージェントは、単に「職場を変えるためのツール」ではありません。対話を通じて思考を整理し、3年後、5年後のキャリアパスという「未来の解像度」を上げるためのパートナーだと思って活用していただきたいです。たとえ最終的な決断が「いまの職場に残る」や「知り合いの事務所に行く」であったとしても、外の世界を見たことで得られる納得感は、その後のキャリアにおいて大きな価値になるはずです。
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