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人権派弁護士とは?その活動内容と収入について

「人権派弁護士」という言葉が使われることがあります。ただこの言葉の意味は、使われる場面や人によって肯定的にも否定的にも捉えられているようです。
人権派弁護士は、どのような活動を行いどのようにして収入を得ているのかについて本記事でまとめています。



人権派弁護士とは?

本来すべての弁護士は人権派弁護士

弁護士である以上は、人権を守ることがその職責の一つであることは当然です。弁護士法1条1項も、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と明確に規定しています。

他の士業と異なり、弁護士は場合によっては国家権力と争うことも必要な職業です(もちろん、弁護士が国家権力と争うのは国家権力と争う一国民の代理人としてのことですが)。国と対比すればすべての国民は弱者であると言えますから、すべての弁護士は本来は人権派弁護士だとも言えます。

特に人権問題を直接の解決目標とする弁護士

ただ、一般的に「人権派弁護士」という言葉は、労働問題、生活保護問題、外国人問題、平和問題など人権にかかわる分野を専門とし、場合によっては政治的な問題も扱う弁護士というニュアンスで使われることが多くなっています。すなわち、さまざまな人権問題に特化した業務を行っている弁護士ということです。

先ほども触れたとおり、もともと弁護士は常に人権を擁護する立場で行動する訳ですが、通常の法的な争いは必ずしも人権に直結しているものではありません。例えば、夫の浮気を原因とする離婚訴訟が人権問題かというと通常はそうではないでしょう。しかし、同じ離婚訴訟でも、離婚原因が夫の暴力を伴うDVだということになると、これは夫婦間の問題であると同時に、妻側の人権問題としての側面も有することになります。このように、弁護士が日々扱っている業務は、多かれ少なかれその裏側に人権問題が潜んでいるものですが、それはあくまで事件の解決にとっては付随的なものであって、人権問題の解決それ自体が中心になるものではありません。

しかし、人権派弁護士と考えられている弁護士たちが行っている業務の中には、人権問題の解決もしくは人権に関する問題提起それ自体が目的となっている場合があります。原発の建設や運転差し止めに関する訴訟や、自衛隊の海外派遣に関する違憲訴訟などはその典型的な例でしょう。

人権派弁護士という言葉を明確に定義することは難しいことですが、世間一般の人権派弁護士に対する認識は、先に挙げたような人権問題を直接の解決目標とするような案件を活動内容としている弁護士のことを想定しているものと言えるでしょう。

人権派弁護士の活動内容

一般民事・刑事事件

人権派弁護士といわれる弁護士の活動内容はさまざまです。ただ、後に述べるとおり、いわゆる人権問題に関する業務から得られる収入は少ないものであることが通常ですから、日常の業務の中心は一般の弁護士と同様の民事・刑事事件であることが多いでしょう。弁護士も収入がなければ生活をしていくこともできませんし、事務所の維持もできませんから、収入を確保するためにも一般的な事件を扱っているわけです。

労働事件

労働問題は、弱者としての労働者が強者である企業と争うものですから、人権問題の側面を有しています。もちろん、労働問題といっても企業側の代理人となる弁護士は人権派弁護士と見られることはありませんが、労働者側に立って専門的に労働事件を扱う弁護士が人権派弁護士と見られることはよくあることです。

実際にも、人権派弁護士が労働事件専門の事務所を構えていることは多くなっています。

外国人問題に関する業務

我が国に在住する外国人の中には、アジア、南米、アフリカなどの発展途上国から仕事を求めて来日した人々がいます。それらの人々は、十分な収入を得ているわけではありませんし、場合によっては在留資格に問題のあるケースもあります。弱い立場にあるという点では労働者と同様のことが当てはまりますので、これらの案件を扱う弁護士も人権派と見られることが多いでしょう。

生活保護、福祉問題に関する業務

労働者、外国人などと同じように、生活保護受給者やホームレスなどの人々、また心身に障害を抱える人なども社会的弱者ということができます。これらの問題を法律的な側面から扱う弁護士も同様に人権派弁護士と見られるでしょう。

原発問題、平和問題などに関する業務

原発設置・運転の差し止め訴訟や自衛隊関連の訴訟などに関わる弁護士も人権派弁護士として見られることが多いでしょう。

これらの分野では、事件の直接の解決のためだけでなく、問題提起の一手段として訴訟が提起される場合もあり、法律的な側面だけでなく政治的な側面も有するケースが多いため、利益度外視で業務を行うことも珍しくはありません。

刑事事件・少年事件

重大犯罪が発生したときなどに世間でよく話題になるのが加害者の人権の問題です。犯罪を犯した加害者はどうしても社会から非難の声を浴び、加害者自身やその家族の人権面は軽視されがちですが、加害者やその家族も人間である以上は人権を有することは間違いありません。このようなことから、社会的に話題となった刑事事件の弁護人となった弁護士も人権派弁護士と世間から見られることが多いでしょう。この場合には、「人権派弁護士」の肩書はいいニュアンスでは使われていないのが通常です。

ただし、この場合の弁護人は、単にたまたま国選弁護人に選任されただけで普段は「人権派弁護士」としての業務を行っていない弁護士であることも多いでしょうし、誰かが国選弁護人にならないと裁判自体を開くことができない訳ですが、一般の国民にはそこまでの理解はされていません。

弁護士なら一度は経験することでしょうが、弁護士以外の人にはなぜ弁護士が犯罪者のために弁護活動を行うのかが理解できないという人が多数存在します。そのため、社会的な耳目を集め、非難を浴びている刑事事件の弁護人も被告人と同じように社会的な非難を浴びることがあります。山口県光市母子殺人事件で、大阪府知事・市長を務める前の橋本徹弁護士がテレビ番組で弁護団に対する懲戒請求を行うことを示唆し、実際に多数の懲戒請求が市民によって行われるということがありましたが、一般の国民が弁護人によい感情を持っていないことの一例といえるでしょう。

また、刑事事件と同様に少年事件を扱う弁護士も人権派と見られることが多いようです。少年事件では、少年は加害者であると同時に福祉的な保護を受ける対象でもあるため、より人権感覚が問われる種類の事件であるためでしょう。

海外の人権派弁護士

世界各国にも人権派弁護士といわれる人々はもちろん存在しています。いくつかその例を見てみましょう。

中国の人権派弁護士

中国にも人権派弁護士は存在します。人権に対する制限が半ば公然と行われている中国では、その活動は日本よりも活発と言えるかもしれません。

事あるごとに西側諸国から非難されているように、中国では当局による人権弾圧がしばしば行われており、人権派弁護士が拘束されたという報道も頻繁になされています。2015年には100人を超える弁護士が警察に拘束されたとの報道もなされています。

カナダの人権派弁護士

カナダの人権派弁護士であるデビッド・マタス弁護士は、アムネスティなどと協力して中国における臓器売買の実態を調査し、カナダ政府から勲章を受けると同時にノーベル平和賞の候補にも挙げられました。

オバマ元大統領

アメリカの第44代大統領を務めたバラク・オバマ氏も政界に進出する前は弁護士として活動しており、公民権法を専門とする人権派弁護士でした。弁護士業務の傍ら貧困層を救済するための市民活動も行っており、典型的な人権派弁護士と言ってよいでしょう。

人権派弁護士の収入

人権派弁護士といわれる弁護士が扱う案件は、十分な収入をもたらすものではありません。

通常、弁護士の報酬は受任する案件の経済的な利益に比例して算定されますが、いわゆる人権問題に関する案件は金銭的には少額の請求にとどまることが多く、ケースによっては金銭的な請求は行わないものもあります。

したがって、これらの案件から得られる弁護士報酬は低額なのが通常です。ところが、これらの案件は通常の案件に比べて手間がかかって時間を取られることが多く、弁護士にとっては大変コストパフォーマンスが悪い分野ということができます。これが多くの弁護士が人権問題を専門として取り扱うことを敬遠する理由の一つといえます。

人権問題に熱心な弁護士の中には、費用が持ち出しとなっても案件を受任する人もおり、これは熱意と信念がなければできることではありません。

ただ、弁護士も自分の生活や事務所の維持のために一定の収入が必要なことは当然ですから、一般の弁護士と同じようにいわゆる一般民事事件・刑事事件を受任して一定の収入を確保した上で、人権問題に関する事件も並行して扱っていくということになります。

なお、現在は日本司法支援センター(法テラス)が弁護士費用の援助業務を行っており、この援助を受ければ依頼者が弁護士費用を準備できなくても確実に弁護士費用の支払いを受けることができますので、以前に比較すれば人権問題にかかわる案件からの収入も安定しているということはできるでしょう。

まとめ

人権派弁護士は、社会的弱者のために活動し、国民の基本的な権利である人権を守ろうとしているのですから、本来ならば国民から尊敬を受ける存在となりそうですが、人権派弁護士という言葉には否定的なニュアンスが含まれていることも多いことは先ほど述べたとおりです。

人権問題を真剣に扱えば、国家や大企業などとの間で鋭い争いになることが多いので、それに対する反発・反感を受けることもあるでしょう。また、場合によっては政治的な主張をすることにもなりますから、政治的な立場が違えば批判を受けることにもなります。

その点で、人権派弁護士に対しては一定の社会的な圧力がかかったり、非難を受けたりすることもあるわけです。

ただ、最近では議員定数不均衡訴訟などで、人権派弁護士の対極として見られてきた企業法務を専門に扱っている弁護士が活躍するなど、これまでの「人権派弁護士」の見方に変化が生ずるような傾向も生じています。

いずれにしても、弁護士は基本的人権の擁護を通じて社会に貢献する重要な立場にあるのですから、人権問題を直接扱うかどうかにかかわらず、普段から人権感覚を養っておく必要があることは間違いのないところです。

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